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[クライオポンプの基礎知識 1 ]
クライオポンプのしくみ
1.クライオポンプとは
真空容器内に極低温面を設置し、これに容器内の気体分子を凝縮または吸着させて捕捉し、排気するポンプである。
機械的な可動部分が少なく、 油等を使わないため、クリーンで高い真空をつくることができる。
クライオポンプが気体を有効に排気するためには、凝縮の場合には、蒸気圧が、吸着の場合には吸着平衡圧力が10-8Pa以下でなければならない。
図1は、各種気体の蒸気圧を示したもので、窒素より蒸気圧の低い気体は、極低温面(クライオ面またはクライオパネル)が20K以下に冷却されていれば、その蒸気圧は10-8Pa以下になることが分かる。水素、ヘリウム、ネオンのような蒸気圧の高い気体は20Kでは凝縮により排気することができないため、20K以下に冷却された吸着剤により排気される。
このように、クライオポンプはすべての気体を排気することができ、超高真空を得ることができる。
図1.各種気体の蒸気圧
クライオ面を作成する方法には、閉サイクルの小型ヘリウム冷凍機を用いる方法が一般的である。小型ヘリウム冷凍機を用いたクライオポンプは、液溜型クライオポンプのように定期的に寒剤を供給する必要がなく、簡単な操作で清浄な超高真空が得られ、長時間、安定した連続運転を行うことができる。
2.クライオポンプの作動原理と構造
クライオポンプの構造をCRYO-U8Hを例にとり説明する。
クライオポンプに使用される冷凍機は2段式であり、1段目は冷凍能力が大きく80K以下に冷却することができ、2段目は冷凍能力は小さいが10~12Kに冷却することができる。
15Kクライオパネル(1)(凝縮パネル)と15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)は冷凍機の2段ステージに取り付けられており、冷凍能力の大きい1段ステージに取り付けられた80Kシールドと80Kバッフルにより、室温の放射(輻射)熱から保護されている。また、吸着剤は表面が覆われるのを防ぐため、凝縮性の気体の入りづらいクライオパネルの内側に取り付けられている。
図2.CRYO-U8H
クライオポンプが排気する主な気体は、次の(1)~(3)などである。
(1)空気(N2、O2) | :真空装置粗引き後の残留気体 | ||
(2)放出ガス | 1 | H2O | :真空容器の壁面に吸着(通常の真空装置では最大の成分) ガラス、プラスチック、セラミックからの放出ガスの主成分 |
2 | H2 | :真空容器の金属壁内部の拡散放出(超高、極高真空で問題) 高温、溶融金属(特にAl)からの放出(蒸着、スパッタ) | |
3 | CO、CO2、 CH4、CnHm |
:真空装置壁面の汚れ | |
(3)導入ガス | 4 | Ar | :スパッタ装置 |
5 | H2 | :イオン注入 | |
6 | O2 | :酸化物 | |
7 | その他 |
蒸気圧表から、水蒸気(H2O)は クライオ面の温度が130K以下であれば蒸気圧は10-8Pa以下になるため、80K以下に冷却された80Kシールドと80Kバッフルに凝縮し排気されることになる。 窒素(N2)、酸素(O2)、一酸化炭素(CO)、アルゴン(Ar)等の気体は、80Kでは蒸気圧が高いためここには凝縮せず、20K以下のクライオパネル(1)の外表面に凝縮し排気される。
ヘリウム(He)、水素(H2)、ネオン(Ne)等のさらに蒸気圧の高い気体は、 10~20Kレベルの温度では凝縮しないため、15Kクライオパネル(1)(凝縮パネル)の内側に取り付けられた吸着剤に吸着され排気される。 吸着剤が取り付けられている15Kクライオパネル(2)(吸着パネル)は、凝縮性の気体により吸着剤の表面が覆われるのを防止するため、凝縮性の気体の入りにくい凝縮パネルの内側に取り付けられている。
80Kシールド、80Kバッフル、15Kクライオパネル(1)の外表面は鏡面仕上げとなっており、室温からの輻射熱を反射するようになっている。 80Kシールドが内面黒化処理されているのは室温の輻射が80Kシールドの内面で反射し、15Kクライオパネルに入射するのを防ぐためである。 クライオポンプが正常に作動するためには、80Kシールド、80Kバッフルの温度が130K以下、15Kクライオパネルの温度が20K以下であることが必要である。
これらの温度が確認できるように80KシールドにはCA熱電対が、15Kクライオパネルには水素蒸気圧温度計(H2VP)や クライオ熱電対温度計 MB型が取り付けられており、温度が確認できるようになっている。(CA熱電対の130Kでの起電力は-5.5mVが目安となる。)
3.クライオポンプの再生と安全弁
油拡散ポンプやターボ分子ポンプは排気した気体を圧縮してポンプの外に放出するが、クライオポンプは15Kクライオパネルに凝縮と吸着により貯め込んでいるため、定期的に気体を放出し、再生しなければならない。
再生はクライオポンプを室温まで昇温させることにより、凝縮または吸着しているガスを気体に戻すことにより行われる。 貯め込まれた気体の量が多くクライオポンプが密閉状態の場合には、再生の際にクライオポンプ内部が高圧ガスとなる恐れがあるため、クライオポンプには安全弁が取り付けられている。
安全弁の作動圧は、20kPa(gage)に設定されている。
安全弁は安全のためのものであるため、安全弁を塞いだり、他の用途のために改造することは絶対にしないこと。
また、再生時のガス放出用バルブとしては使用しないこと。安全弁が作動すると、パージガス中のゴミ等がシート面に付着し、リークの原因となる。
4.クライオポンプシステム
クライオポンシステムは、基本的には
《1》クライオポンプユニット(冷凍機ユニット含む)
《2》コンプレッサーユニット
《3》フレキホース(2本)
で構成されており、図3のように接続される。それにクライオポンプを起動するため(クライオポンプは大気圧からは起動できない)と再生に必要な粗引きポンプ(お客様にて用意)が必要である。
図3.クライオポンプシステム